岡山市新アリーナ整備計画|問題の本質
- かんざき政人
- 6月27日
- 読了時間: 9分
更新日:7月8日

前回のコラムでは、新アリーナ計画のこれまでの経緯について説明した。
ここでは、アリーナ計画を市民はどのように受け止めたのか、またこの計画には、どのような問題点があるのか、私なりに解説したい。
【市民の反応】
アリーナ計画に反対する市民の多くは、アリーナ計画を次のように感じたのだろうと想像する。
大森市政では、ハレまち通り(旧県庁通り)の一車線化、ハレノワ整備、市役所建替え、北長瀬みらいふれあい総合公園整備、駅前路面電車乗り入れ整備等と、いわゆるハコモノ行政が目立ち、アリーナ計画が示された際に、またハコモノかと、市中心部の鉄とコンクリートに偏った政策への不満が市民にくすぶった。
さらに岡山市が岡山県にアリーナ整備の財政負担を求めた際、県側から「経済波及効果の説明が不十分かつ正確でない」と返され、知事も不快感を示したため、新アリーナ整備計画は、整備自体が目的のずさんな計画なのではないかといった不信感を市民に抱かせることになった。
また同時期にアリーナ署名活動が始まったが、身分確認が不要なWEB署名も可能であったため、「やらせ署名ではないか」といった憶測を呼ぶことになった。
その後、岡山市は県に十分な説明をすることなく、市が単独事業として実施する方針を示したことで、県が納得しないような計画を強引に進めるのかと、更なる不信感を与えることになった。
インターネット上でアリーナ整備に関する市民アンケートが始まり、初めてアリーナ整備について民意を確認する場が設けられたものの、アンケート項目がアリーナ整備を前提とした内容であり、アリーナ整備反対意見を無視した恣意的なアンケートの印象を与えた上、何回でも投稿できる仕組みであったため、アンケート自体の信頼性が怪しいと感じさせることになった。
その後、アリーナ規模が1万人規模に拡大され、元々は約80億円だった整備費用が、約145億円、そして約275億円と膨らみ、市民に対してだまし討ちのような印象を及ぼすに至った。
【問題の本質】
では、どうしてこのような事態になってしまったのか、その問題の本質について考察したい。
まず、多くの市民は、そもそもアリーナ整備計画の目的がよく分からないし、アリーナ整備を推進するアリーナ整備検討会議でも、資料や議事録等を見る限り、目的と戦略が不明確のまま進められていることが垣間見える。
※アリーナ整備検討会議の資料や議事録については、次のページで確認することができる。そもそもこの資料等は、当初非公開であったものの、アリーナ整備に疑義をもつ市民本位の市議会議員の活躍により、公開に至った経緯があるとのこと。
まず1回目の会議資料を確認すると次のとおりの記載がある。
〇新アリーナの整備目的と効果
新アリーナ整備は、トップチームやアマチュアスポーツ、市民スポーツの利用拡大に寄与するだけでなく、第2期岡山市 スポーツ基本計画の基本方針の一つに掲げる「スポーツを通じたまちの活性化と一体感の醸成」の実現を目的とし、その 実現により次の5つの効果が期待される。
※そもそも論として、基本計画の目的自体が不明確であるが、ここでは触れないこととする。
この文章だけでも問題が垣間見える。
まず主語が「新アリーナ整備」となっている点で、アリーナ整備ありきなのである。
実際に第5回の議事録では、アリーナ整備検討会の顧問である田口市議会議長が、
市長のもと、やはり市民に対する負担をなるべく軽減していき、そしてアリーナをしていくのだっていうこ の目的の中で、一定数の反対者の人がいる、それを我々がいかに理解をしてもらえるか。
と発言しており、アリーナ整備が目的であることが分かる。
本来であれば、目的設定をするにあたり、岡山市スポーツ基本計画が岡山市の行政戦略として上位に位置するため、
目的は、「スポーツを通じたまちの活性化と一体感の醸成」の実現であり、トップチームやアマチュアスポーツ、市民スポーツの利用拡大を目標の一つとしていく
から始まり、具体的な数値目標が示されたうえで、目標を達成するための課題の一つである、
・トップチームの試合や練習ができる会場が慢性的に不足している点
の解決を図る方法に繋がるべきなのである。
この課題解決は、アリーナ整備が唯一の解決策ではなく、体育館の整備や既存施設の改修、利用優先順位の変更等も解決策として考えられるため、いろんな解決策を比較検討して進めなければ、市民からすると、アリーナ整備でなければならない理由がまず分からないのである。
しかし議事録を見ると、例えば、アリーナ整備検討会のメンバーである岡山理科大学の林教授は第1回の会議にて、
極端な話をすると、私はスポーツを主語 にするのはやめようと。
つまりスポーツのためではないんですね。
市民のため、地域経済のため、それは 皆さん大前提だとおわかりいただいているかと思いますけれども、どうしてもスポーツを盛り上げるというような言い方をすると僕は市民から受け入れられないと思っています。
と発言する等、アリーナ整備自体は、本来の目的である「スポーツを通じたまちの活性化と一体感の醸成」ではなく、地域経済発展のためと目的がすり替わるのである。
こうした点について、アリーナ整備検討会メンバーの岡山県スポーツ協会の松井専務は、第1回会議において、
市民の感情、インパクトということになると、 やはり生涯スポーツとか、学区に根を張ったスポーツ団体の活動の拠点をどういうふうに新アリーナで出 していただく、飛んでいただく、戻っていただく。そこをもう少し深掘りをしないと、市民の認識度、市民の新 アリーナに対する思いというのは、薄れていくのではないか。
と本来の目的の重要性について指摘しているが、残念なことに松井専務は第2回から第4回の会議を欠席されており、発言の機会がなかったことを惜しく感じる。
また一方で、アリーナ整備検討会の副座長である商工会議所松田会頭は、第5回の会議において、
これからは、魅力的なまちづくりを進めることによって、東京一極集中の是正、岡山にいかに人を残して いくかが最重要課題です。
経済界の一番の悩みは、関税の問題や目先のこともありますが、中長期的に は、いかに街に人を残していくか、いかに地域を盛り上げていくか、そして雇用に繋げていくか、ということ に尽きると思います。
企業は人材確保に非常に困っております。
そうしたことから、岡山の魅力を高めるものとして、アリーナはなくてはならないものになってくるだろうと 思います。
と発言する等、アリーナは岡山の魅力を高めるものとして位置付けている。
ここまで読んで分かるように、アリーナ整備のそもそもの目的が不明確となっているのである。
「スポーツを通じたまちの活性化と一体感の醸成」のためなのか、「スポーツではない地域経済の発展」のためなのか、「東京一極集中を是正し、岡山の魅力を高める」ためなのか。
過去の様々な事例が物語っているように、目的が不明確な事業は、間違いなく失敗する。
【赤字案件】
さらに採算についても、アリーナ整備検討会議では赤裸々に語られている。
第4回アリーナ整備検討会議にて、岡山理科大学の林教授は、
これからどう経済的価値と社会的価値を回収していけるかという、ある程度プランを立て、例え ば 10 年以内に、どうその経済的価値と社会的活動を回収して、毎年のトントンの話はわかったんだけど、 280 億も、これ民設民営だったら回収できないんで、倒産なわけです。
それをきちっと 10 年計画、5 年計画、 それを示してどう経済的価値と社会的価値を回収するかということを、指標立てて、市民に説明するという ことが、市民の理解を得るためには必要なんじゃないかと。
と、アリーナ整備計画は、民設民営では費用回収できず倒産する赤字案件であり、そこに税金を投入するからこそ、総合的な経済的価値や社会的価値の指標を立てて、市民に説明するということが重要だと示している。
公共事業として、総合的な経済的価値や社会的価値の向上を目指すのなら、そのアプローチが新アリーナ整備である必要性がどれほどあるのだろうか。
【楽観的な見通し】
採算見通しは、年間の収支がトントンと想定されている。
約4億円の収入と約4億円の運営費でトントンという訳だが、その収支の前提は、年間全ての土日がプロスポーツやコンサート、展示会やその他イベントで埋まる想定となっている。
素人目に見ても、「そんな訳あるか」と疑問に思うだろう。
兵庫、広島、高松のアリーナとコンテンツの争奪を行わなければならないし、また県内でもハレノワやコンベックス岡山等と競争していかなければならない。
年間の運営費が約4億円であるため、1日当たり約110万円稼がなければ赤字になる。
土日等の集客が見込まれる日は、おそらく利用料が200万円~となるのではないだろうか。
主催者側も収益が見込める場合でなければ、そもそもアリーナを利用しない。
アマチュアスポーツの大会で、会場費に100万円以上も出せないだろう。
また、アリーナの建設・運営は、BTコンセッションという方式で行われる予定である。
これは、行政は建設費のみ負担し、運営会社に建設させ、運営権を同社に全権譲渡する方式である。
運営会社はどのようにして利益を出し、独立採算を保つのだろうか。
建設費を高騰させて、最初に相応の利益を抜くのか。
赤字運営で、行政に対して救済を求めるのか。
もしかすると、独立採算と謳いつつも、ランニング費用は市が支出する契約にするのかもしれない。
こんなにも商業色の強い施設を公費で整備する必要性がどれだけあるのだろうか。
【政策提案】
私は、アリーナ整備を公費で行うべきではないと考えており、アリーナ整備計画の白紙撤廃を政策に掲げている。
では白紙撤廃した後はどうするのかという点については、代替案として複合型福祉施設の整備を掲げている。
警察官時代、多くの高齢者の孤独死に対応し、それが当たり前になっている社会への危惧を感じていた。
所得の少ない高齢者は、公的施設に頼るしかないが、公的施設は100人超えの入所者待ちが発生している。
所得が多くても少なくても、安心して人生を全うできる社会でなければ、地域の未来はないと考えている。
また医療と介護が融合した複合型福祉施設の整備は社会的価値を向上させるだけでなく、地域雇用の増加をもたらし、施設の給食に地元産を利用することや備品を地域メーカー製造のものを利用することで、地域内経済循環も高めることができる。
最後に、アリーナ計画の発端となる、トップチーム(SVリーグ、Bリーグ)がホームアリーナ基準の見直しにより、このままでは岡山で試合ができなくなるという点については、対応が必要だと考えている。
ホームアリーナ基準となる観客席数は、固定式でなく、仮設席や立見席でも良いため、アリーナ整備以外の解決策を市民に示し、理解を得ながら進めていくべきだと考えている。
※参考:SVリーグのホームアリーナ要件は、次のページで確認できる。
※7月4日 記事内容を追加しました。
既存のジップアリーナや浦安体育館でなんとかしてほしい。増改築っていう方法もあるのでは?と思ってしまいます。